総排泄腔遺残

病気の説明は、難病情報センター(https://www.nanbyou.or.jp/entry/4588)より引用、転載させていただいております

指定難病293

総排泄腔遺残


病気の説明

◎総排泄腔 [そうはいせつくう] ってなに?

総排泄腔(cloaca クロアカ)とは、体の発生過程において胎生4〜9週に存在する臓器の名前です。

胎生5週には体壁と腸管が形成され、将来直腸・肛門と膀胱・尿道になる部分が総排泄腔とよばれる一つの腔として存在します。

その後、総排泄腔は上方より発生する尿直腸中隔により前後に分離され、胎生9週には腹側が膀胱・尿道に、背側が直腸・肛門となります。


総排泄腔遺残(persistent cloaca)は、この総排泄腔の分離過程が障害され、総排泄腔が生後に遺残した病気で、総排泄腔遺残症という病名となりました。


女児にしか発生しない病気のため、 図のシェーマに示すように、正常では尿道、腟、肛門がそれぞれ会陰・肛門部に開口しますが、本症では尿道、腟、直腸が総排泄腔に開口し、会陰部には総排泄腔のみが開口します。遺残した総排泄腔の部分は共通管ともよばれ、この長さは症例により大きく異なります。

★モモの会からの補足
4~9週目の胎児には、みんな(男女関係なく)総排泄腔というものがあります。
このひとつの臓器が、少しずつ分かれていき、それぞれの臓器へと育っていくのですが、総排泄腔遺残というのは、臓器が分かれていく過程で上手く分かれていかず、総排泄腔が「残った」(=遺残)ままということのようです。

そして、この残された総排泄腔の部分を指して『共通管』といいます。
治療や手術の説明の時に、よく耳にする言葉のひとつです。


この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?



発生頻度に関しては、欧米の報告では約5万の出生に1人と報告されています。

2014年に行われた本邦における全国調査では

1980年から2009年までの30年を10年毎の3期と、最近の2010年から2014年までの5年間で各時期の発生数を調べると、1980年〜2009年までの3期の発生数は55人、118人、187人で、最近の5年間は66人と時期より大きな変動があります。


各期間の出生数を患者数で除した何人の出生あたりに1人の患者さんが発生するかという頻度を調べると、1980〜1989年は26万の出生に1人でしたが、1990年以降は10万から6万の出生に1人というほぼ一定の割合でした。1980年以降の35年間の発生数は426人で、年平均の発生数は12.2人、1990年以降の発生数は371人で年平均の発生数は14.8人で、毎年12〜15人程度の発生状況でした。



本症は、直腸肛門奇形(または鎖肛)という先天的に肛門のできていない疾患群に属し、直腸肛門奇形の発生頻度は出生3〜5千人に一人の発生頻度で、本症は女児の特殊型に分類され、直腸肛門奇形全体の5〜10%を占めています3)。

★モモの会からの補足
◎統計を取られるようになっておよそ40年ほどになりますが、平均して5万人に1人くらいの発生と言われています。2018年のアメリカでのデータ(https://youtu.be/VWl-ePT3MyM)では、新生児の女児、2万人に1人と書かれていたので、国によって発生頻度が違うのかもしれません。

日本国内では600名ほどの患者がいるそうです。
◎直腸肛門奇形=鎖肛は、3000人~5000人に1人くらいの発生頻度です。鎖肛は男女比で見ると少し男児が多いのですが、総排泄腔遺残は、この直腸肛門奇形の女児の特殊型になるそう。

この病気の原因は何ですか?病気は遺伝するの?



この病気は、多くの 先天性 疾患と同様に遺伝子異常が原因と考えられます。
マウスの実験では、直腸・肛門の発達と分化に関係しているSHH(ソニックヘッジホッグ)と呼ばれる蛋白質やその蛋白質の細胞内伝達に関与するGli2とGli3と呼ばれる蛋白質を遺伝子操作で発現しないようにすると、総排泄腔が遺残することがわかっています。
しかし、人においてはこのような知見はなく、人における原因は不明です。

そして遺伝性に関するはっきりした見解はありません。
遺伝子異常が唯一の原因であれば、一卵性双生児の双方に発生するはずですが、本症と類似の病態が一卵性双胎の両者に発生したという報告もあれば、一卵性双胎の片方に発生したという報告もあり、遺伝子異常だけでは説明できないため、環境因子や催奇性因子などの関与も考えられ、多くの因子が関与する疾患と考えられます。

★モモの会からの補足

なぜ、このような病気になったのか?
生まれてきた我が子の病名を知らされて、多くの母親が、『原因は何?』と、とても悩みます。
『妊娠中に無理をしたからだろうか?』とご自身を責めている方もおられるのではないでしょうか。

しかし、分かっていることは、遺伝子異常によるのだけれど、遺伝子異常が起きた理由がはっきりとしていない…ということです。

そのため、お医者さんや看護師さんにたずねても、
「お母さんが原因ではありません」と皆さん言われます。

事実、お母さんが何かしたからと、起きることではありません。
様々な因子が重なった(しかし、その因子が何なのかは分からない)ことで発生しています。


この病気ではどのような症状がおきますか

総排泄腔という狭い通路に膀胱、腟、直腸が開口するため、排便が障害され腸管が進行性に拡張し、放置すると 腹部膨満 と腸管穿孔が発生します。
胎児期のあかちゃんは排便をしないため、腹部膨満や腸管拡張は生後に発生します。

共通管の長さは症例により0.5cmから7cmと大きく異なり、共通管が狭い場合や長い場合は排尿も障害されます。
胎児期に排尿が障害されると、水腟症といって尿が腟に流入し腟が拡張するという症状が発生します。この水腟症は約3割に発生し、腟にたまった尿や直腸から腟に流入した胎便が子宮を経由して卵管から腹腔にもれると、胎便性腹膜炎という胎児期独特の腹膜炎を来たし、腹部膨満、腹水、水腎症、腸管拡張などが発生します。

また、約8割に片腎無形成、水腎症、腎 異形成 、神経因性膀胱、異所性尿管、膀胱頚部形成不全、腹壁形成不全、膀胱憩室、腎回転異常、膀胱結石、馬蹄腎、重複尿管などの様々な泌尿器疾患が合併します。

これらの異常は、出生前に診断されることも多く、症例の約半数が出生前になんらかの異常が見つかっています。
腎無形成や水腎症などの泌尿器系の異常で発見されるものが約半数、水腟症が約半数をしめます。水腟症は、卵巣 嚢胞 、二分膀胱、尿管瘤などと間違われることがあります。


2014年の本邦における466例の全国集計でも、2000年以降は半数以上が出生前になんらかの異常が発見されています。泌尿器疾患の合併は欧米と同じく8割で、水腎症が約3割で、片側腎欠損が約1割でした。

泌尿器疾患以外の合併奇形は約半数に認められています。腟や子宮という内性器に関する異常も約6割に存在し、双角子宮が約半数に、重複腟が約3割、水腟症が25%の症例に認められています。内性器の異常は、思春期に入って月経血が排泄されない子宮流血路障害を発生し、腹痛や子宮腟留水(血)症の原因となります。


★モモの会からの補足
妊婦健診から異常が見つかり、胎児スクリーニングで病気が分かるというケースや、妊娠中には何も異常がなく出産後の検温でお尻の穴がない(鎖肛)などで分かるケースもあります。

赤ちゃんは、出生後から腸が動き出すため、まず便の出口(ストーマなど)を確保することが優先されます。
そのため、生まれてすぐに手術を受ける必要があります。(モモの会でのアンケートでは、0日~1日での手術が最も多く、4日後にストーマ造設という方もいました)

妊娠中の胎児の状態や状況、母体の状態や状況に応じて、正産期(妊娠37~42週)以前に出産となることも。また、比較的安定した状態で産まれてきていてもNICUにて経過をみる必要が生じます。

この病気にはどのような治療法がありますか

外科治療が中心となります。

総排泄腔に開口する腟・子宮と直腸を分離し、直腸・肛門と腟を作成します。

排尿障害や巨大膀胱がある場合には、尿路作成も必要となります。

外科治療は出生後早期に行う緊急的手術と乳幼児期行う根治的手術に分けることができます。

出生後早期に行う緊急手術は、排便障害、排尿障害、水腟症など生下時に存在する不具合に対して症状を緩和するために行うもので、人工肛門、膀胱瘻、腟瘻造設手術です。
その他に合併症を伴うことが多いため、合併症に対する消化器手術、泌尿器手術、生殖器関連手術も行われます。

腟形成や直腸・肛門形成といった根治手術は、乳児期後半以降で体が大きくなり、CTやMRIなどの画像検査や膀胱鏡検査で病態を把握した後に行います。肛門形成と腟形成は同じ術式で同時に行う他に、異なる術式で別個に行うこともあります。


根治手術の選択において重要な指標は、総排泄腔の長さです。総排泄腔の長さが3cm未満の場合は、開腹しないで会陰から肛門部の操作で一期的に直腸・腟を形成することが可能です。

手術法としては仙骨下端より肛門部までを縦切開し、総排泄腔に合流する直腸・肛門と腟を切離し、本来の位置に引き下ろすPSARUVP(posterior sagittal anorecto-urethrovagino-plasty)や会陰部から総排泄腔を中心部に向かって剥離し、直腸は切り離し肛門部に引き下ろし、合流している尿道と腟の部分はそのまま切離しないで下方に授動してそれぞれの開口部を会陰の開口部として引き下ろしてくるTUM(total urogenital mobilization)という方法があります。

肛門形成後に皮膚を形成して腟後壁とするskin plastyという術式もあります。総排泄腔が3cmよりも長い場合は、直腸や腟・子宮を引き下ろすために開腹操作を加える場合が多く、腟を形成する場合でも、腸管などの代用腟を用いる場合が多くなります。
 

★モモの会からの補足

根治術に限らず、ひとつひとつの治療や手術は主治医から説明があります。一度聞いただけで、全て理解するには難しい内容も多くあるかと思います。
話を聞いて、その時は理解できたつもりでも、帰宅して思いめぐらしてみると、疑問が出てきたり、不安が押し寄せてきたり…、そういうことが起きることもあります。

疑問や分からなかったこと、再度説明してもらいたいことがある時は、出来るだけ内容をメモにするなどしておきましょう。
主治医や病気について理解してる先生がいればその方と話す時間が取れるか聞いてみましょう。
すぐその場では、先生方も多忙でゆっくり時間を取っての説明するのは難しいかもしれませんが、時間を作ってもらえるか、看護師さんたちに相談して、調整可能か働きかけてみても良いかと思います。

予め、聞きたいことをメモしておくことで、時間をかけずに質問に答えてもらえますし、自分自身が何に悩んでいるかが見えてきますので、それを一度吐き出す=言語化することで、頭のなかを整理する助けにもなります。

モモの会

ピアサポート 【モモの会】です。 モモの会は総排泄腔疾患の娘を持つママたちの集いで、こちらのサイトはモモの会のメンバーで運営しています。

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